Sain'o O『蝉』について


一念発起した勢いで今回制作にエンジニアとして携わった全曲について少し振り返ってみることととしました。

 

まず、前置きとして

書くとは言っても何を書けば野暮ったくないのだろうかと少し悩みました。

 

自分が思うミックスマスタリングエンジニアという立場は作り手である土橋君や、その楽曲からイメージや情景を感じ取り膨らませミックスに還元しようとするプロセスを経るものだと思います。

もちろん作った本人でないので自動的に自然とそうなるわけですが、作り手と同じ目線から景色を見られるように努めるという意味で忘れてはならない心がけなのだと思います。

同時に、エンジニアは山の上で作り手と同じ景色を見た後、山から下りて山肌をみて本当にそう見えるのか確認するという。“聞き手の五感“も備えている必要がありました。

 

今回はこの”聞き手としての部分”でどんなことを感じたかを軸に

自分がどう感じ、どんな景色を目指してミックスに臨んだかをここに表明することで、答え合わせをしてみたいというコンセプトで"何か"を書いてみようと思います。

 

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夏の空気

この曲から自分は、

カラッとした夏、神社のある裏山、広い田んぼ、田んぼの間を縫う未舗装の道には強い日差しと薄く揺らぐ陽炎、昔ながらの古民家の縁側、縁側からは青い空と入道雲、影と陽の光のコントラストがくっきりとしたカラッとした夏の情景

そんな空間を想起しました

 

また、

楽器構成がシンプルであることと、土橋君の生きざまやこのアルバムに懸けた想いに重なるかのような歌詞表現、それらにフォーカスするべく

スポットライトに照らされる中、歌い上げる土橋君の姿が見えるような空間として表現できたらいいなと

 

そんな目標を目指してミックスを進めました。

 

 

蝉をミックスして改めて考えたことは

音楽の基本は音を奏でる演奏そのもの、(これは絵で言うところの造形や構図・色彩に相当するものでしょうか?)

ミックスではそこに、リバーブで奥行きや光・陰影、コンプで空気感、パンやEQで広がり

などなどを付加し、整えていく

つまり、

ミックスとは作り手の頭の中にあるイメージを

音楽を通して聞き手の脳内で再現させる手助けをする

役目であるのだろうということでした。

 

作曲やミックス、音楽というものは実体がないものをその場に存在させる

繊細で掴みどころがないような、それでいて人の心を映し、人の心を動かし得るものであるという

なんとも神秘的なことに携わっているのだなと感じました。